気持ちのいい暮らしのつくりかた
テレビや本、雑誌などで、片づけにまつわる特集を見ない日はありません。
いつからこんなにも片づけが注目されているのでしょう? それでも片づけられないのは、なぜ?
「捨てなきゃ」「片づけなきゃ」に追われがちな今、改めて片づけを考えてみましょう。
ブームの発端は2000年のベストセラー本
ちょうど2000年頃、私は女性誌やインテリア誌で編集の仕事をしていました。当時は今ほど「片づけ」や「すっきりインテリア」にフォーカスした特集はなく、収納アイディアや整理術を紹介する企画が数ページある程度。隙間収納やつっぱり棒活用法など、モノを「いかに効率よく収納するか」に着目した内容が多かったように思います。
この傾向に変化が起こったのは、「捨てる」というキーワードが登場してからです。モノが溢れる暮らしを見直すために、まず捨てる。もったいないで済ませていないで、捨てる作業によってモノの価値を改めて検討する。暮らしそのものを管理する作業として、捨てることを採り入れてみては?──このような提案をしたのが、2000年に出版された辰巳渚さんの『「捨てる!」技術』(宝島社新書)でした。「捨てる」を肯定したこの本はベストセラーとなり、私たちは「もったいなくて捨てられない」呪縛から解き放たれました。
「捨てる」が加速し、片づけは必須スキルに
身の回りで増え続けるモノを収納テクや整理術でなんとかしなくても、「捨てる」ことでスッキリ暮らせる──この考えは多くの人に受け入れられ、以後、雑誌は片づけを大きく取り上げ、ノウハウ本も数多く出版されます。その後も「捨てる」は加速して2009年の「断捨離」、2010年の「こんまり」ブームへとつながり、2015年には必要最小限のモノだけで暮らす「ミニマリスト」も登場。今では「シンプルライフ」は多くの人が目指すライフスタイルになっています。
さらに片づけは家の中に留まらず、職場や学校でも求められるスキルに。生前整理も一般的になりつつあり、老若男女問わず片づけに追われる風潮にあります。「捨てなきゃいけない」「片づいた暮らしをしなくちゃいけない」が蔓延して、なんとなく苦しくなっている...。今はそんな状況にあるのではないでしょうか。実際に私の片づけ講座にも、片づけに疲れた人が数多くやって来ます。
片づければ生き方が整ってくる!
私は2014年から2年間、「捨てる」を提案した辰巳さんが主宰する「家事塾」に通いました。辰巳さんから暮らしにまつわるさまざまなことを直接学んだのですが、お話を聞くたびに目からウロコ。あぁそうだったのか!と、腑に落ちることばかりの貴重な日々でした。
なかでも片づけについて辰巳さんは『「片づけなくてもいい!」技術』(宝島社新書、2011年)という本で、モノは私が生きる価値観の顕れであって、片づけとはモノとともにどのように私の暮らしを作っていくかを構築し、維持していくことだ。一言で言えば、生き方を整える作業なのだ──と言っています。モノを通して自分と向き合い、理想の暮らしや生き方に近づくために必要なモノを見極める。このプロセスこそが片づけなのだという考えに、深く共感したのを覚えています。
自分と向き合い、自分の頭で考えて片づける
単にモノを捨てたり減らしたりすることが、片づけではありません。片づけても片づけてもすっきり暮らせないという人は、目の前のモノを減らすことに終始しているからです。片づけとはもっと奥深く、ほかでもない自分の生き方を整える作業。だから、万人にとって正解となる片づけ方はありません。自分の生き方を整えるためには、身の回りにあるモノが本当に自分にとって必要なのか、大切なのか、きちんと向き合って取捨選択する。つまり、いったん正面切って自分自身と向き合って決断していくほかないのです。
本や雑誌に載っている「すっきりした暮らし」の実例や片づけのハウツーを参考にしても、もちろんOKです。ただし忘れてはならないのは、それはその人の暮らし、その人の片づけだということです。借りものでも人真似でもない“自分の片づけ”をすれば、決してリバウンドはやって来ません。
撮影・文/石野祐子(Forest inc.)
フリーランスエディター・ライター。家事セラピストユニット「いえはな」主宰。海外ウエディング誌、女性情報誌、ファッション誌、インテリア誌などの編集を経てフリーに。料理やインテリア、育児、健康など、女性の暮らしにまつわるジャンルにて執筆。また、文筆家&生活哲学家・辰巳渚主宰の『家事塾』にて学び、1級家事セラピストの資格を取得。2016年より自宅教室「いえはな」を主宰し、すっきり暮らす片づけの考え方や、日々の家事をラクに気持ちよく回すための秘訣を伝えている。