【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント
2024年1月1日の能登半島地震以降、災害対策を積極的に取り組んでいる人が増えたように思います。しかし大抵の人は「モノを買う」ことで満足し安心しています。でも、一度も使ったことがないものを、緊急時に使いこなすことができるでしょうか? 災害時には、人は冷静さを失い、日常の半分程度しか対応できないのが普通なのです。
そのためには、何もない時に情報を集め、知識を身につけ、そしてものを使いこなす経験を増やすことが大事になってくるのです。いざという時のために、今回は「今やっておくべき事前の備え」をお伝えしたいと思います。
被災想定を確認して何が足りなくなるのかを把握しよう
防災対策をする際、闇雲に怖がって、あれもこれも買っておかなくちゃいけないと思っている人が多いように感じます。そこで自分の被災想定を確認できる防災サービスをいくつかお教えします。
① 地震10秒診断
https://nied-weblabo.bosai.go.jp/10sec-sim/
震度6以上の被災の可能性、被災後の停電、ガス復旧、断水等の想定日数の把握ができます。
② パーソナル防災サービス (pasobo)
https://pasobo.jp/
1分程度の質問で、自分が在宅もしくは避難のどちらをすればいいのか、どんな準備をすればいいのかを具体的に教えてくれます。
③ 重ねるハザードマップ
https://disaportal.gsi.go.jp/index.html
国土交通省が制作している災害リスク情報や防災に役立つ情報、全国どこでも重ねて閲覧可能。住所を入力すると、その地点の災害リスク(洪水、土砂災害、道路防災情報、地形分類、緊急避難場所)を重ねて調べることが可能。
安全な避難に役立つとともに、日ごろから自分がどのような地域に住んでいるかを知っておくことも大切。
④ 東京備蓄ナビ
https://www.bichiku.metro.tokyo.lg.jp/
家族の人数や個人の支援レベルによって備えておくとよい防災備蓄のリストの提案をしてくれます。
災害時に使う連絡手段を前もって練習しよう
被災して、家族の安否が知りたい! けがをした! 外出先からどう歩けば家にたどり着けるかわからない! そんな時にスマホに設定しておけばすぐに使えて安心できるサービスをご紹介します。
① 緊急SOS
スマホそのものが緊急SOSを発信できる機能。緊急時、サイドボタンを5回押し、発信ボタンをタップするとあらかじめ設定しておいた緊急連絡先に連絡が届くサービスです。
※お持ちのスマホの「設定」→「安全及び緊急」画面で確認を。
② 災害伝言ダイヤル171と災害用伝言板web171
NTTが災害時に解放するサービス。離れ離れの家族で連絡を取り合えます。
家族で共有できる電話番号を決め、その電話番号を使って伝言を残したり、web171を使うとメール通知もできます。平時でも毎月1日と15日にデモ機が動くので、試しておくことをお勧めします。
③ LINE
コミュニケーションツールだけではなく、災害時にも強いアプリ。今自分のいる場所を地図で送ったりできるので、安否確認にも役立ちます。
家族や職場などのグループLINEを作っておき、連絡が取れるようにしておくとよいでしょう。
④ Googleマップ(オフラインマップ)
被災時、歩いて帰るのにネットにはつながらず、どこに向かって歩いていけばよいかわからない! という時にもオフラインで地図を見て帰れるよう、あらかじめスマホに地図をダウンロードしておくとよいでしょう。
節水と備蓄の心得
地震10秒診断で「東京都中央区」を診断したところ、ライフラインは停電2日、ガス停止10日、断水15日と出ました。
ここで重視したいのが“断水15日”。これに対応できる備蓄をあなたはしていますか? 水の備蓄の目安とされる「1日1人3L」は、あくまでも最低限。3Lのうち、2Lは飲食用、1Lが生活用水です。
通常の水洗トイレでは約4L/回の水を使います。日に最低8回はトイレに行く方だとなんと計32L。2Lのペットボトルを16本も使っていることになります。そう考えると普段から節水を心がけ、自分が使っている水の量を知ることも防災につながります。 1Lの生活用水をいかに大切に使うか! 私はペットボトルのキャップにちょっとした工夫をしています。真ん中に1カ所だけキリで穴を開けるとその1つ穴から勢いよく水が出るので洗浄効果も増し節水になります。
2 Lの飲用を無駄なく使うには、ゴクゴク飲まないこと。貴重な水なのでちょっとずつ飲む。実はこちらの方が体内に浸透しやすいというデータも出ています。口を潤すことで感染症や脱水も防ぎます。調理をする際の野菜を茹でた湯は捨てないで食器洗いや掃除に使ったりして二次利用をします。
備蓄する水は1カ所ではなく、各部屋に少しずつ分けて保管しましょう。なぜなら、1カ所にしておくと、部屋がぐちゃぐちゃになった時に取り出せなくなるからです。
震度7ではモノが飛んでくる!?
大きな地震が起きるとモノは4つの動きをします。
落ちる、倒れる、移動する。そして飛ぶ。私は1995年阪神淡路大震災の時、意外なものが飛んできて顔を骨折しました。ベッドから1.2m離れた場所にあったテレビデオ(14kg)が顔めがけて飛んできて直撃し、骨折。それだけではなく、枕元にあった飾り棚ケース、足元にあった本棚、ハンガーラックは全て倒れ、家の中はぐちゃぐちゃになりました。そして私の机に出しっぱなしのハサミが飛んできて、床にグサッと突き刺さったのを、私は今でも忘れられません。私はそれからは片付けるようになりました。
コロナ以降、働き方も大きく変わりました。自宅でのリモートワーク、仕事に使う備品はリビングに出しっぱなし。オフィスであれば、自分専用のキャビネットバッグに入れて移動して作業。自分専用の机があればペン立て、小型扇風機やモニターなどは置きっぱなし。そしてこれらのグッズには、飛散防止対策はしていないと思います。
小物だけではなく、パソコンやモニターも凶器になります。大型モニターと机を100円ショップに売っている粘着性のある耐震マットや、耐震ジェルマット、転倒防止伸縮ベルトで固定しておくと安心ですね。
ライフラインが切れた生活をイメージする
ライフラインが切れる。それによって普段できていたことがほとんどできなくなります。
断水になりトイレが使えない。エレベーターも使えないので、移動は自分の足で避難階段を使うことになります。マンションライフの場合、これが生活をじわじわと脅かしてきます。例えばマンションの上層階に住んでいる場合、避難階段を使って、給水所に行ったり、瓦礫を運んだりすることになります。また救援物資をもらいに行くためには階下に降りなくてはなりません(家に届けてくれるわけではないのです)。
大抵の人は、災害が起きて命が助かった後の「片付けながら元の生活に戻していく」というイメージが持てていません。小さな一つ一つの行動もライフラインのない中でしなくてはならないのです。あなたは避難階段を使って出かけたことはありますか? 自分の体力を知っておくことも防災につながります。地上階までの上り下りは大変。しかしいざという時は階段を使わざるをえなくなります。せめて階段を使う回数を減らすためにも、普段から水やトイレ対策グッズ、食料、日用品など普段使っているものを少し多めに備蓄すること。それだけで階段の上り下りが減ると思います。
自分の“好き”も備えておきましょう
やらなきゃいけないことはわかっている。でもわざわざ用意するのは面倒くさい。とたぶんみんな同じことを思っています。
しかし、備蓄していないと助からないことも事実。わざわざ災害用に購入しなくても大丈夫。日常生活の中で少し多めを意識してみてください。防災対策グッズはセットで買った方が簡単です。しかしその中にあなたが欲しいものがあるとは限りません。そしてものを買っただけで使いこなしていない場合、ライフラインが切れている中では、命取りになります。
普段から使ってこそ、その使い勝手の良さがわかるというもの。
災害時になれば、質感や香りも自分好みでなければストレスになります。平時にそれを試して、自分のお気に入りだけを集めて備蓄してみてください。
準備ができていない人は被災時は慌てて、騒いで、怒り出します。そんな状況では冷静な判断はできません。普段から慌てない、騒がない、怒らない。そんな素敵な大人を目指して、日常生活を豊かにすれば、自然と防災に強い人になれると私は思っています。今日からぜひ試してみてください。
辻 直美(国際災害レスキューナース)
一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。
※掲載の情報は、2025年8月20日現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。