Brillia くらしのコラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

災害に対応するのは誰?

世界有数の地震大国である日本。加えて近年は、豪雨や台風による大規模な被害も各地で多発しています。しかし、自然災害は人間の力では避けようのないこと。
もしもの時に、あなたやご家族の命を守るには「防災」のための日頃の備えや訓練が不可欠です。マンションは、歴史的に見れば比較的新しい住まいのかたちです。そして実は住民がやらなくてはならないことが意外にあります。今回は起こりうる問題と住民同士で協力する事を紹介したいと思います。

マンションだからこそ存在する「防災のポイント」

戸建てに比べると、中・高層のマンションは、上階になるほど揺れが大きくなる傾向があります。大規模な地震は長周期地震動(ゆっくりとした大きな横揺れが10分間ほど続く)が発生しやすく、高層の建物は特に影響が大きいと言われています。建物が大丈夫でも、揺れによって室内の家具・家電が倒れる、落下する、棚の中のものが飛び出す、窓ガラスが割れる・・・など、さまざまな被害が発生します。揺れが増幅される上階ほど、こうした被害は大きくなると予想され、実際に熊本地震では、負傷したマンション居住者の4割が家具類の転倒によってけがをしたというデータもあります。
新耐震基準の適用により、大きな揺れが起こった場合でも建物が倒壊することはありませんが、家の中の落下物の防止対策や家具の配置などには配慮する必要があります。そして部屋の中だけではなく、マンションそのものにもそれなりの被害が起きる可能性も。その時には住民同士が協力して対応することが必要な場面もあります。

どんな場面で住民が動くことになるのか?

マンションが被災したとき、残念ながら管理会社が全てに対応できるとは限りません。管理会社自体も被災しています。交通がストップすれば管理員なども出勤できないことも。災害はいつ起こるかわかりませんから、自分たちで何とかするのが基本になります。
地震の際に起こりうることとしては
 ①耐震でないドア枠などの変形による閉じ込め
 ②停電によるエレベーターやオートロックの停止
 ③照明がつかない
 ④上下水道・ガス管・送電設備への被害によるライフラインの停止
 ⑤建物の接合部(エキスパンションジョイント)にヒビが入り使用停止
 ⑥建物自体の損壊
 ⑦管理員がすぐにマンションに来られない
などが考えられます。その際には住民が組織する理事会や担当の係の方、自主組織の出番なのです。

私のマンションで実際にあったこと

前に住んでいたマンションで理事長をしていた際、震度5の地震が起きたことがありました。ちょうどその日は可燃ゴミを捨てる日。そのマンションでは曜日に合わせてゴミを出しネットをかけるという運用でゴミ出しをしていました。地震が起きたのが朝6時半。ちょうど出勤に出て行く人もいたし、朝ごはんを作るために調理をしていた人もいた時間帯です。淡路島震源で大きく揺れ、マンション自体も長い時間揺れました。大きな損壊はなかったけれどライフラインはダウン。当然エレベーターが止まり、大騒ぎになりました。理事長としてすぐに各階の班長に連絡をし、理事会役員にも連絡を取りました。当時はLINEはなかったので、メーリングリストで連絡を取りました。全員の無事を確認、住民たちの安全の確認も速やかにできました。火事や漏水等はなく、ほっとしました。ここまでに要した時間は1時間。エレベーターに関してはメーカーと連絡が取れず、非常階段を使ってもらう事をアナウンスしました。これで一安心と思っていたら、住民たちからすごい文句が出てきたのです。住民たちの一番の関心事はなんとゴミ出し。住んでいたマンションは高齢者が多く住んでいたため、非常階段の上り下りがきつい、しかしゴミは出したい。理事長さん何とかしてと泣きつかれたのです。ここで威力を発揮したのが子ども会でした。元気のある子供たちにそれぞれ各階の担当グループを指名し、親御さんとともにゴミ出しを手伝っていただきました。

なぜこんなにスムーズにできたのか?

まず私は理事長になった時にした事は、災害時に起こりうる問題を明確に区分けしました。そしてマンションで起こりうる問題を住民全員と考える、次に管理会社ができることは何かを明確にする。残された問題に対しては、どうやって住民だけで乗り切るのかを理事会で話し合いました。もちろん最初からスムーズに話し合いはできなかった。でも何度か臨時総会を開いたりして住民の皆様に理解をしてもらうようにしました。それが実ったのが災害が起きた日です。本当に円滑に住民の安全確認ができ、その後の復興までの活動はスムーズでした。普段から理事長と班長たち、理事長と理事会の役員それぞれとのコミュニケーションを密にとっていたおかげだと思います。また班長たちにはそれぞれの担当階の住民たちの住宅状況や家族編成、お手伝いが必要な家族はどこにいるのかの把握をしてもらい、理事会役員と共有しました。だからこそ速やかに安全確認ができたと思います。やはり要になるのはコミュニケーションと情報共有なのです。

災害時のマニュアルを検討して見えた問題点

マンションに住む方に対し各自治体で「マンションの防災対策」として「震災時活動マニュアル策定の手引き」などを公開しています。この中にはマンション内での「対策本部・情報班・救護班・安全班・物資班」といった体制づくりとその役割を整理する重要性を説いています。
先日、この役割検討会を行ったところ以下のような役割が明確になりました。
<対策本部> 理事長、副理事や各理事がひとつひとつの課題に対処する。
<情報班> 刻々変化する外部の情報を収集。毎日定期的な居住者への情報伝達。また居住者名簿の管理。外部に避難している人/幼児/けが人/階段利用が難しい人/ペット等、各住戸の状況を把握する。
<救護班> 要援護者および負傷者等の救護、避難誘導。
<安全班> 建物・設備の安全確保。コロナ対策やトイレ問題など衛生的な対応。例えばマンホールトイレや共同トイレの設置とゴミ置き場の一時利用禁止など。
<物資班> 備蓄品、飲料水、救援物資等の管理、配布。敷地内の廃棄場所の指定など。

問題点いろいろ

1.火が出た場合の対応
2.水害時はあらがじめ土嚢や止水板を設置。被災後は復旧方法を検討
3. 食料&物資班は食料・毛布などの配給管理など
4.階段が使えない人の補助や配達代理などなんでも屋が必要

今回、検討会の中で一番悩んだのは【管理組合に対する連絡方法】でした。
例えば家具につぶされて部屋から出られない! 携帯電話はあるのに助けをどうやったら呼べるのか? 管理室の電話はもちろん管理組合のものですが、停電時は使えない場合もあります。
具体的な問題を一人一人が考える、そしてみんなで考えていく、住民と管理会社が同じテーブルで考えていくことがすなわち共助であり、復興への道になるのです。
これはメンバーが代われば、見えてくる問題点も、解決法も変わってきます。1回検討したから終わりではなくメンバーを代えて何度もやること、同じメンバーであっても回数を重ねれば答えが変わってくる。【災害は怖いけど防災はおもろい】。私はまさに普段からのシミュレーションが大事だと思います。マンションの防災として有事ではない今、ゲーム感覚で定期的な検討会を取り入れてみるのはいかがでしょうか?

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2022年5月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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