【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント
近年日本ではあちこちで災害が起きています。50年に1度、100年に1度と言われる豪雨も日常的になってきました。これから30年以内に起きると言われている南海トラフ、直下型地震も、もしかしたら明日起きるかもしれません。いつ来るか分からない災害に立ち向かうためには準備が必要です。地震や水害に向けて私たちは何を準備すれば良いのでしょうか?
日本のどこかで災害が起きても自分事に思えない
地震は今年に入って1月14日までに484回起きています。自分の住んでるエリアで速報が流れていないからといって、日本で災害が起きていないわけではないのです。皆さんは災害が起きたときの状態をニュースで見たことがあるでしょう。しかしあの状態が自分の身に降りかかると思ったことはありますか? たいていの方が自分には遠い話と捉えているように感じます。そして被災者は皆口を揃えて「まさか自分がこんなことになるとは思わなかった」「前からきちんと準備をしておけばよかった」と言います。自分だけはこんな目に遭わない…。こう思うのは災害心理が働くからです。これはどんな人も持っている感情で、実際に起こったことが自分の生活に関わるとは思いたくない気持ちがあるからです。被災の事実を自分事に捉え、準備できる人はいざという時に、命を守ることができます。災害心理を理解して、自分も被災するのだという意識があなたを助けます。
水害対策は天気予報チェックから始まる
水害には大雨、河川の氾濫、台風、高潮、豪雪があります。水害は唯一、前もって準備ができる災害。いきなり起こるわけではないので、水害に対しては準備することができます。まずは情報収集が大事。最近は天気予報でもかなり詳しく状況説明をし、1週間先までの見込みが分かります。特に雨を降らせる気圧配置や低気圧高気圧、前線などに注意をしてニュースを見ましょう。また、自分が今いる場所で1時間後、3時間後、6時間後…と先々の状態まで情報を把握しておくことが必要です。アプリでも非常に細かい情報が手に入るので、日常的に活用することをオススメします。そして雨の強さや近隣の浸水状況などを予想して、避難行動を前もって決めておく。特に子供がいる家庭では子供の迎えや避難をどうするのかは重要。そして子供や高齢者がいる家庭では早めの避難は鉄則です。ママ友や近隣の人とも協力して、チームで子供や高齢者を見るようにすると良いでしょう。
被害を最小限にするには3日前から準備をする
水害で大事なのは水を家に入れないこと。台風時は物干しざお、植木鉢など、ベランダに置いているものは家の中に入れておきます。。昼間でも雨風が強い場合はカーテンを閉めておくことで、外から窓ガラスが割れて飛散することを防げます。私は窓ガラスの高さより10センチ長いカーテンをつけて、飛散防止にしています。風も強くなる場合は養生テープや段ボールで窓ガラスを補強しておくこと。排水溝の掃除は必須。大雨の際には窓枠サッシの部分にタオルを詰め、外から水が侵入しないようにし、水が入ってきそうな場合は土嚢を積んだり、トイレの中に水嚢を入れて逆流を防ぎます。家財道具は濡れない高さにまとめ、ゴミ袋などに入れて濡れないようにします。また自宅にいることが危険になった場合は、垂直水平避難(高くて遠い場所に逃げる)がベスト、無理なら水平避難(より遠い安全な場所へ避難)します。逃げるための防災リュックは前もってリビングに置いておきましょう。
地震はいつ来るかわからない、だから、備える
地震対策を一気にやろうとすると、まとまった時間がないとできません。わざわざ物を買ってこない。家にある物でやる。そしてできる範囲からやることがポイント。今、あなたが見えている所から始めましょう。机の上を片付けるだけでも地震対策になります。何でも使いやすいからと、外に出している。見せる収納をしている人は本当に要注意!大地震が起きると、家の中の物は「落ちる」「移動する」「倒れる」「飛ぶ」の4つの動きをします。この4つの動きを想定して、家の中でなるべく快適に過ごせるようにします。そして家の中で過ごせるスペースを作るために、物が倒れてこない対策をすることです。家具の重心はなるべく低く、下には耐震板という揺れを防止する板をはめこみます。できれば天井までぴったりとなるように段ボール箱を使い、家具の倒壊を防ぎます。あれこれ専門道具を買わず、家の中にある物で対策をしていくことをオススメします。
避難しても、しなくても防災リュックは必要
在宅避難が推奨されていると、家の中に備蓄があるからリュックは必要ないと思っていませんか? 災害時はいろんな瞬間に判断が必要。被害が最小で自宅で生活できそうなら在宅避難でOK。しかし事態はどんどん変わるので避難の決断もあり得ます。その時必要なのが防災リュック。この時に見落としがちなのが、気持ちを落ち着かせるためのアイテム。たとえ避難をしてもそこで営むのは生活。生活の中にはレクリエーションが必要です。お子さんが一緒に避難する場合は、普段からよく遊ぶおもちゃやお菓子などでOK。生活に必要なものはコンパクトにまとめます。全てのパッケージを外し、ジッパー付きビニール袋などでパッキングをするのがオススメ。小さくなるし、防水対策としても効果を発揮します。防災リュックの中に常備薬やメガネ、コンタクト、お薬手帳なども忘れないように。着替えや、季節モノ、その時の状況によって中身は大きく変わるので少なくとも月1回は見直ししましょう。
何事も一度体験しておけば怖くない
避難すると言ってもその逃げる先はいろいろあります。いっとき避難所、広域避難場所、避難所と3つあります。それらは地震火災水害全てに対応しているわけではありません。立地場所や災害によって得手不得手があります。これらの情報を知っておかなければ、いざ逃げてたどり着いてもその災害に対応してなければ意味がありません。今はコロナ禍で避難所の収容人数は3分の1に減らされています。逃げ着いたのに満席だったということも。ハザードマップで自分の家の近くの避難所のチェックをしておきましょう。そして実際に歩いて行くことが大事です。行き着くまでの道にはどんな被災の可能性があるのか、自分の目で見て歩いて体験すること。できれば防災リュックを背負って歩いた方がリアリティーが増します。避難所は普段の生活ではあまり認識されていないところにあります。なんとなく知っているではなく確実に知っている。この経験があなたの命を救うのです。
辻 直美(国際災害レスキューナース)
一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。
※掲載の情報は、2021年1月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。