【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント
災害は時間に関係なく起きます。自宅にいたら防災リュックや防災グッズが備えられ、備蓄もあるのでなんとかできます。要注意なのは外出中です。何も持たずに被災したら大変なことになるかもしれません。しかし災害用にわざわざ持つのも面倒と思うと長続きしません。普段から持っていれば日常生活の質が上がり、会社にいる時や通勤時に被災した時、または避難所で過ごす場合に、慌てずに対応できるようにこれだけは用意しておきたいグッズをご紹介します。
持ち歩きたいもの5点
1.ペットシーツ・生理用品
ペットシーツ・生理用品などは通常の使い方だけでなく、実は用途がたくさんあります。
なんと「止血」や「冷却」に使えるのです。他にも脇汗パッド、おむつでも代用可能です。これらの商品ができることの一番は血液や水分を吸収すること。それを利用し、出血時に傷口に当てて大きな絆創膏の代わりに使えます。さらにマスキングテープや手拭いなどで固定したら同時に止血するのにも使えます。
一般的な生理用品に使用される吸収体のポリマーには、実は体を冷やす作用があるのです。 ポリマーは「冷却ジェルシート」にも使用されている素材と同じです。水分を吸収すると素材自体が冷たくなります。つまり、熱中症や発熱時の冷却に使えるのです。生理用品に綺麗な水を含ませて10分ほどすると冷たくなります。首、手首、腰、鼠蹊部などに直接当てて体を冷やすことに使えます。もし生理用品等が熱を含んで温かくなったら、レジ袋などに入れて10回ほどくるくる回すとまたひんやりとしてきます。これは気化熱の作用が起きるからです。ぜひ何もない時に一度試しておいてください。
2.マスキングテープ
マスキングテープは、文具としての使い方以外にも、災害時にはいろいろな使い方があります。
伝言を書いて貼る、自分の持ち物に名前を貼る、お菓子の袋に封をする、日付を書く、メモを書く、さらに何かを貼ったり留めたりしたい時など。
災害時の特殊な使い方としてはゾーニングの境界線に使ったり、骨折箇所の支えになるもの(傘や割り箸、ボールペンなど)を固定するのにぐるぐる巻いたりします。他にも縛る紐代わりに使ったりすることも可能です。
3.携帯トイレ
会社や商業施設内で被災した時、一番困るのはトイレです。
あなたは普段使うトイレの衛生は誰が保っているのか考えたことはありますか? 自宅では家族、会社や商業施設内は掃除をしてくださる方がいるから、トイレはいつもきれいな状態がキープできているのです。被災後のトイレは断水などで水が十分に供給されずに流せなくなり、また掃除が行き届かなくなることで不衛生となります。会社や商業施設では、自分が汚したものでも掃除しない人も多く、他人が汚したものを掃除できる人は多くはいません。皆さんが想像する以上に、あっという間に使えない状況になります。
私たちは被災したとしても排泄行為だけは我慢できません。どんな場所でも衛生的に、かつストレスなく用が足せるよう、携帯トイレを持ち歩くことをおすすめします。 前述したペットシーツとビニール袋をセットにしておけば携帯トイレとして使えますので持ち歩きグッズとしては軽くて安価に用意できます。
こちらの介護用品も非常時に役立ちます。
こちらの商品は、凝固剤や吸水剤を使った従来の携帯トイレとは全く異なり、薬剤が大便や小便を包み込むように固めます。 化学反応により糞便中の雑菌を殺菌するため、腐敗がなく悪臭やガスの発生もありません。そのためゴミの収集が復旧するまで、長期間の保存が可能です。復旧後は可燃ゴミとして処理してください。(お住まいの自治体のルールに従って廃棄してください)
(参考)商品名:「ほっ!トイレ」
https://www.excelsior-inc.com/products/hot-toilet/
4.口腔ケア用品
被災直後は断水が長期間続き、口腔ケアを怠りがち。
これは避難所・自宅だけの話ではなく、会社・学校で避難していたとしても起こり得ます。 能登半島地震や能登半島豪雨で注目されているのは「口腔の不衛生による体調不良や災害関連死」です。
人の生活に最低限必要な水は1日3リットル。ただし、会社や避難所で配給される量には制限があるかもしれません。そうなると飲食以外に体を拭く、手を洗うなどが優先され、歯磨きは後回しにされる傾向があり、口の老化が進みます。避難所では会話も減り、エンタメも少なくなるため、表情が乏しくなり口周りや喉の筋肉が衰えることが指摘されています。
口腔ケアが減ることで、口腔内が乾きドライマウスとなります。これにより、口腔内に雑菌が繁殖し健康に影響が出てきます。体の抵抗力が落ちてくると、誤嚥性肺炎になりやすいのです。誤嚥性肺炎は決して高齢者だけの病気ではなく、若い人でもなり得ることです。
口腔内の衛生は誰にとっても必要なこと。そこでご紹介したいのがオーラルピースです。 これは介護の世界では定番になっている商品。オーラルピースで歯を磨いた後は、うがいをしなくてもOK。また歯を磨いた後に 飲み込んでも安全です。口の中を潤わせるため、入れ歯などの潤滑剤としても使われています。
(参考)商品名:オーラルピース
https://oralpeace.com/
5.ボディケア用ミスト
日常でも清潔にしたいのは髪、顔、体全体、脇、そしてデリケートゾーン。避難生活で意外と後回しにされ易いのがデリケートゾーンです。
デリケートゾーンを不衛生な状態にしておくと膀胱炎になりやすく、いずれ腎臓炎になることもあります。また、女性の場合はカンジダ性膣炎になることもあります。
避難所で体の清潔を保とうと思うと、大量の水が必要になります。しかし実際はそれだけの水を備蓄することはできません。体を清潔に保つためのペーパーやウェットシートなども肌に合わなければ炎症を起こしてしまいます。また清涼感を求めるために、メントールが強いものなどを使うと肌が荒れてしまう方もいます。その上、部位に合わせて専用の商品を持つと大量の物品が必要になります。
そこで私がいろいろ探して見つけたのが、この商品「グルーミングミストNI」です。 協和発酵工業株式会社(現:協和キリン株式会社)が介護用品として開発し普及している商品を、さらに進化させたのがこの商品です。アミノ酸を利用して匂いを分解するだけではなく、肌に潤いを与えます。そして驚きなのが、髪や体全体だけではなくデリケートゾーンに直接噴霧することができます。私はこの部分を高く評価していて、小さなサイズのものは常に携帯するようにしています。デリケートゾーンに直接噴霧できる商品は過去にいろいろ探してみましたが、なかなかありませんでした。体だけではなく布や空間の匂い消しとしても使え、日常使いにおいても非常に便利だと評価しています。
(参考)商品名:グルーミングミスト NI
https://workoutmistni.com/
まわりにあるものを違った角度から考えて、こんなふうにも使えないかなぁといろいろイメージしたり、実際にやってみたりすることが大事です。そして、他のものと組み合わせて代用品を編み出していく柔らかい頭があれば、たくさんのものがなくても大抵のことは乗り切れるものです。
辻 直美(国際災害レスキューナース)
一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。
※掲載の情報は、2024年12月16日現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。