Brillia 防災コラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

停電時にも美味しい食事を!

先日、東京・日本橋にて、Brilliaオーナーズクラブ会員向けに【停電時にも美味しい食事を!】セミナーを行いました。そう、災害時にも日常と変わらぬ豊かな在宅避難生活をしていただくための実践を兼ねた防災イベントです。これまでにも講演をさせていただきましたが、コロナ禍で対面が難しかったためオンラインでの開催でした。やっと対面でできるからこその内容にしたい。そこでなんと味の素冷凍食品株式会社のご協力もいただき、冷凍食品を使った災害時の料理をご紹介させていただきました。

災害時に想定されるしょぼい避難生活、最低限の食事

災害が起きた時、数日後には、避難所の中には救援物資が段ボールで山積みになっていて、それを自由に受け取れることができる。そのように思っている人はたくさんいらっしゃると思います。しかしその映像は被災した直後のことではありません。少なくとも72時間以上経って、外からの救援物資が運び込まれたような状況になってからの話です。それまでは、避難所の中に満足な備蓄があるわけではありません。なかなかメディアには出てこないのですが、避難所そのものが安定するのにかなりの時間を要します。被災者は着の身着のままで避難所に転がり込んでくる。食べ物はおろか、身の回りのものも持たずに。しかしそこには快適な環境があるわけでもないため不安が募ります。被害エリアがさほど大きくなければ、他県からの救助もヘルプも期待できます。ただ、私たちが恐れている南海トラフ地震や首都直下型地震は、被害エリアがものすごく大きい。なので、思うような救助活動や援助活動が行われないものと推定されています。場所によっては、道が寸断されたり、冠水したりすることによって孤立したエリアになることだってありえます。そこで大事なのが備蓄です。モノを買うだけでは助かりません。そのモノをどうやって使うかが非常に大事なことになるのです。

いつまでも質素な食事に耐え・我慢する避難生活ができますか?

日本の防災はいつまで経ってもバージョンアップができない。なんとなく最低限のもので我慢して、質素な避難生活を送ることを良しとする風潮があるように思います。日本の避難所はソマリア難民キャンプ以下だと言われてもう20年近く経ちます。特に食事に関してはほとんど改善されていないと言っても過言ではありません。災害が頻繁に起きるということは、避難生活も身近になってきているということです。だからこそ目指す避難生活そのものを見直してほしいと思います。
2023年7月は台風6号・7号が日本全域に影響を及ぼしました、私は大阪に住んでいるので、台風が直撃するコースにいました。そこで台風上陸の前日にリサーチのため、スーパーやコンビニを4軒回ってみました。どこの店でも、菓子パン、カップラーメン、おにぎりの棚はすっからかん。他の商品はあっても、そのコーナーだけ商品がなかったのがとても印象的でした。そこに3歳位の男の子を連れたお母さんがいました。子どもは疲れているのかぐずぐず泣いています。お母さんは大きな声でめちゃくちゃ子どもを怒ってました。「あんたが、たらこのおにぎり欲しいって言うから探してるのに…。どこに行ってもないんやからしゃーないでしょ。次の店行くで」。子どもはさらに声を上げて泣いています。
まだ台風は来ていないので停電はしていない。つまり家でご飯を炊いて、たらこを買って帰れば子どもが欲しがっているたらこおにぎりが作れるのに…。店の中に商品がないとそれを買うことが目的になってしまって、本来すべきこととずれてしまうことがよくあります。停電であっても家の中にあるものを使って美味しく作れるテクニックがあれば…。そういう食材を計画的に買っていれば…。不安になって何軒も店を回る必要はありません。無駄にイライラすることもなく、体力を減らすこともありません。
今回は災害時だけではなく、日常生活の中でも使えるテクニックとして2つの料理をご紹介しました。

スープジャーを使った餃子スープを食べてみよう

スープジャーというのは魔法瓶仕様になっていて、一定の温度を保つことができる蓋つきのステンレスの器です。今回は味の素の冷凍餃子と中華スープの素を使って作りました。調理のポイントはスープジャーに熱湯を入れて温めておくこと(この温めたお湯は食器を洗うのに使うので捨てません)。たったこれだけのことを守れば、とてもおいしい熱々のスープが作れるのです。温めたスープジャーに冷凍の餃子2つ、中華スープの素を1つ入れます。そこにお湯を注ぐ。蓋をして20分放置。たったこれだけです。今回は確実に美味しく短時間で作るために、フリーズドライの中華スープを使いました。冷蔵庫の中に野菜や豆腐等の材料があればそれを使ってもOKです。味付けも中華だしだけではなく、和風だし、コンソメキューブなどを使えます。ずっとカセットコンロの火にかけておかなくても、お湯さえ手に入れば冷凍食品をうまく使って調理することができるのです。参加された皆様のアンケートにも書かれておりましたが、冷凍食品を冷凍の状態でなく半分ぐらい溶けている状態で食べるのかと思っていたと。まさか熱々の状態で冷凍食品を食べることができるなんて考えてもみなかったのでしょう。そして試食の段階になって、蓋を開けた瞬間に驚きと喜びの顔に変わっていました。ひと口食べた時には、感嘆の声。正直なところ、私にとってスープジャー料理は割と当たり前にやっていることなので、こんなに喜んでもらえるとは思いませんでした。餃子と中華スープ、単体でもおいしいものがスープジャーで出会ったら素晴らしい料理に!めちゃくちゃおいしいに決まってます(笑)。

注 この会場は火器類の使用が厳禁でしたので、ホットプレートを使用しました。

「パッククッキング」で冷凍のお弁当ハンバーグを使ったミートソースパスタのレシピ

20分待ってる間にもう1品できる。ということで、冷凍のお弁当ハンバーグを使ったミートソースパスタを作りました。今回の調理法は「パッククッキング」。この調理法は、熱に強い高密度ポリエチレン袋に食材を入れ、鍋を使って湯煎をする料理です。停電時はもちろん電化製品は使えないのでカセットコンロを使ってお湯を沸かし、熱に強い高密度ポリエチレン袋の中にハンバーグとミックスベジタブルを少量入れ、袋の口を縛って湯煎で熱々にします。パスタは、高密度ポリエチレン袋に早ゆで3分のパスタを入れ、ひたひたになる位の熱湯を入れる。袋の口を縛って10分ほど放置。それでパスタがゆで上がります。ハンバーグが温まったら、袋の中でぐちゃぐちゃに手でつぶします。こういうことは子どもたちが大好きなので、いざというときにはぜひ子どもに任せてみてもいいと思います(やけどに注意)。大人がやっても「本当はやっちゃいけないことをやっている気分」なので、実はめちゃくちゃ楽しいです。商品を提供しているメーカーさんの目の前で、企業努力でふっくらとしたおいしいハンバーグを提供されているのにつぶすというのは、かなり勇気がいりました。しかしどこかでワクワクもしておりました。
あとはハンバーグをつぶした袋の中にケチャップを少量入れて、ミートソースはこれで出来上がり。ハンバーグにはデミグラスソースも入っているので、特に味付けをする必要がありません。最後にゆで上がったパスタをお皿に盛りつけ、その上にミートソースをかけて出来上がり。パスタはほとんどお湯を使っていませんが、それでも少しお湯は残ります。このグルテンを含んだお湯は油汚れがとてもきれいに落ちるので、洗剤として使います。災害時には水はとことん使い回します。なので、どういう順番で大事な水を使っていくのかという知識が必要になるわけです。

いざという時のために、日常でも簡単クッキングで料理しよう

今回ご紹介した料理は、災害が起きた時に食べる食事というわけではなく、日常生活の中でどんどん作ってほしいと思っています。普段食べているものを災害時にも食べた方が元気になります。そして作り慣れておくことが非常時に役に立つからです。
私は講座でよく言います。失敗なんてありません。初めてやることに初めからうまくいくわけがありません。食事であれば、どんなに失敗したと思われる料理でも、カレー粉をふりかければ大抵のものは美味しくなります(笑)。だから失敗を恐れずに何度も何度もやってみてください。あなたがおいしいと思えるちょうどいい味付け、ちょうどいい温度を見つけてください。この失敗を恐れないスタンスこそ、災害が起きるまでに一番必要な備蓄だと思います。どんなことでも頭でシミュレーションしていることは誰だってうまくいきます。でも現実はそんなに甘くない。まして、シミュレーションしている今の環境とは全く変わってしまいます。だからこそ何回もやってみる。特にこんな食事のスキルは、やっておいて損はないと思います。私はオンラインの仕事が続いているとき、食事を作る時間が確保できなくなりますが、そんな時こそ、スープジャーやパッククッキングをうまく利用して時短でおいしい豊かな料理を食べています。

冷凍食品の安全性について

最後に、今回参加いただいた味の素冷凍食品株式会社の勝村様から、味の素の冷凍ギョーザの安全性についてお話をいただきました。味の素の冷凍ギョーザに関しては停電後24時間以内であれば安全に食べられるという実験結果も出ているので、エビデンスをご紹介いただきました。きっと皆様の中にも、『ライフラインが切れている中で冷凍食品を食べる』という考えが全くないと思います。これは冷凍食品会社の方でさえ思いもよらなかったとのことで、私の提案はかなり驚かれました。レンジで加熱するだけではなく、焼いたり煮たりゆでたり蒸したり…いろんな調理法で食べることが可能です。それをさらに美味しく食べるという工夫によって、停電時でも豊かな食事を摂れるわけです。

非常時こそ食事が美味しくなければ頑張れない!

食事が美味しくなければ頑張れない。これは災害時でも同じことです。いつも食べているものをその時に食べられたら、きっと心も体もほっとするし、力がみなぎってくると思います。ナースのお仕事でも【手を抜いても気を抜くな。心配りを忘れるな】と、新人の頃によく先輩に言われました。これはお料理にも言えることです。様々な商品をうまく使って楽をしながら、おいしい料理を食べて、思いっきり笑顔になってほしいと思っています。

今回、参加者のお顔を見ながら、30分の講演と調理、試食をして、ほんとに良かったなと思いました。それは皆様の素直な反応を感じることができたから。オンラインもよいのですが、やっぱり同じ空間を共有して体験することって大事だなぁと思いました。そして参加者から声をかけていただきました。「いつもコラムを読んでいます。まさか本物の辻さんに会えるとは思いませんでした」「毎回知らないことばかりで驚いています。でもすぐにできることばかりで助かっています」と。普段コラムを書いていると、一方通行になりがちです。皆様にとって有益な情報をお渡しできているのか、これは実践しやすいものなのか?と自問自答しながら書いています。なので、このように実際にお会いして感想をいただけて本当に嬉しかった。これからも皆様の質問や疑問等にどんどん答えていきたいと思っていますので、ぜひご意見やご感想をお待ちしています。
皆様が自分で自分の命を守り、大切な人も護ることができる。そのようなお手伝いをさせていただきたいと心から思っています。

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2023年10月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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