Brillia くらしのコラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

被災時に役立つプチ対策!

ここ最近は台風や地震が相次いで発生。このような被害に対して私たちはどれだけ準備ができているでしょうか? 台風被害においての最新の情報と対策、また「地震に備えるお部屋作り」などプチ対策についてお伝えしたいと思います。

断水・節水になったらどうなるか

台風などの自然災害発生時は、次のような状況が絡み合って発生します。
①台風や大雨によって断水
②老朽化で耐久性が低下した水道管の損傷
③給水施設や浄水場、送水設備等の損傷
④水害によって浄水場等が浸水被害を受ける
⑤停電による断水

断水が発生すると蛇口から水が出なくなります。 トイレやお風呂場でも水が使えなくなり、生活が著しく制限されます。 またマンションなどで受水槽を使用している場合はタンクの水を使い切るまでは水が出ますが、使い切ると水が出なくなります。つまり準備をしておかないと今までの生活は営めなくなるのです。
人体は60~70%ほどの水分でできており、水を飲まなければ5日ほどで死に至ります。人体から5%の水分が失われると脱水症状などが現れ、10%以上であれば生命に危険をもたらす事態に陥ります。飲用食用として1日2Lの水が最低必要です。この量で生活するには、かなりのテクニックが必要です。また断水時は、ほとんどの水洗トイレが機能しなくなり、対策を取っていなければ便器に排泄物が溜まることが原因で感染症が蔓延する危険性があります。

先日、台風15号で甚大な被害を受けた静岡県清水市を視察したところ、意外なことが判明しました。このエリアの方は、今までに2日以上の断水を経験したことがないとのこと。断水に対しての準備をしている人が本当に少なかったようです。また給水に関しての準備はしていても、災害時の排泄対策においてはストックした雨水で流す、お風呂の溜まり湯で流すという人がほとんどでした。災害時のトイレ対策の方法をご存じなかった、だからこそ家にあるもので代用できることを知っておいていただきたいのです。断水時のトイレ対策はこちらのコラムをご覧ください

断水・節水時の水対策

人が普通に生活しているとどれぐらい水を使うかご存知でしょうか? 東京都水道局によると家庭で1人が1日に使う水の量は、平均214L(2019年度)。ところが、災害時に最低限必要な水 はなんと1日3L。そのうち生活用水はたった1Lしか使えません。体を清潔に保ち、食器を洗い、掃除をする。ペットボトルからそのまま水を出せば、あっという間に1Lを使ってしまいます。汗ふきシートだけで体を拭いても、洗ったという実感が持てない。意外にもこれは大きなストレスになります。そこでご提案です。動画のように、ペットボトルのキャップにキリなどで穴を1つだけ開けてそれをペットボトルに装着してください。これで少量の水が出るシャワーになります。実際にこれで手を洗うと、水圧を調節できるため、心地よく手を洗うことができます。もちろん食器を洗ったり、掃除にも使えます。私は、顔や体は汗ふきシートを使用しても、デリケートゾーンだけは水で洗いたい。被災地入りの際には、このペットボトルシャワーを使って清潔を保っています。ポイントは穴は1つだけにすること。いろいろ試しましたが、穴が多ければ多いほど水が不必要に出て節水にはなりませんでした。

大きな地震では部屋の中のものが凶器になる

災害が起きる、特に大きな地震が起きると家の中のものは全て凶器になります。ものは「落ちる」「倒れる」「移動する」「飛ぶ」という動きをします。ものは腰の高さ以上にあるものは弧を描いて飛んできます。当たっても痛くないものであれば問題ありません。しかし予想を超えて重いものも飛んできます。私は阪神淡路大震災の時、実家で被災をしました。病院での夜勤を終え、木造2階建ての自室のベッドで横になった瞬間に下から突き上げる衝撃がありました。当時の私も防災に興味があったので、家具の配置は相当気をつけていました。4畳半ほどの部屋に、ベッド、本棚、タンス、机、ハンガーラック、カラーボックス、テレビデオがありました。ちなみにテレビデオとはテレビとビデオが一緒になっていてブラウン管が使用されたテレビです。重さは大体12.5キロほど。これが揺れと同時に1.2m離れたベッドに寝ている私に向かって飛んできたのです。そして私の顔に強打、右の頬骨を折る大惨事になりました。しかし私の勤める病院は半壊して、私が受診治療できる状況ではなく、ただ冷やすしか手立てはありませんでした。このように普段なら飛んでくるとは思えないものでも大きな地震の際には飛んできてあなたを傷つけることもあるのです。

百円程度のグッズがあなたを守る

地震対策で一番手軽にできることは滑り止めシートを敷くことです。たったこれだけのことで本当に地震対策になるのだろうか?と質問されます。私は自信を持って「YES」と答えられます。なぜなら我が家では大阪府北部地震(2018年6月18日7時58分に発生)で実証されたからです。私はマンション12階に住んでいますが、震度6強の地震でたった4本の調味料しか倒れませんでした。ちなみにお隣はぐちゃぐちゃでした。対策としてやっていることは非常にシンプルです。本棚や食器棚、サイドボードなど、あらゆる棚の下に百均で買ってきた滑り止めシートを敷いています。そして「重いものは下に、軽いものは上に」置くよう整理しています。ものはなるべくそのまま置かずに、収納箱に入れるように。そしてその箱の中の底と箱の裏にも滑り止めシートを両面テープで貼り、なるべく摩擦力を上げるようにしています。そして食器棚や本棚が倒れてこないように転倒防止板や突っ張り棒などを使っています。防災対策は単品ではなく、重ね技でやる方が効果が上がります。
滑り止めシートはきっちりと測って切り貼りしているわけではありません。適当で大丈夫。子どもやご高齢の方でも気軽にできます。工作をしてるような気持ちでやっていただければ十分です。大事なことは何かひとつ防災のためのアクションを起こすこと。面白がってやることが大事です。

お菓子・乾物でおいしい料理を作ろう

災害時のために食事を備蓄する。それはとても簡素で質素で、普段食べたことのないようなものをわざわざ買っている。そんな人が多いように思います。被災しても、そこから日常生活は続きます。あまりにもいつもと違う状況の中で、いつも食べたことのない食事が続くとどうなるのか…。気持ちが落ち込み、何に対してもやる気が起きません。とても憂鬱になり将来への希望が持てない。ぐちゃぐちゃになった家を片付けることもできない。元の生活に戻していくことも無理…。と負のスパイラルに陥ります。被災生活の中でも食事は必須であり、楽しみの1つとなります。非常食に乾パンなど無味乾燥なものを用意するのではなく、いろんなものを使っておいしいご飯を食べる。そんな避難生活を目指しましょう。私は普段からインスタントラーメンを使ってそばめしを作ったり、あんかけ焼きそばを作ったりしています。味のアクセントに干しえびや、塩昆布、わかめスープなどを使ったりもします。乾物はコンパクトで常温で長期保存ができるので使い勝手の良い調味料です。私にとって「普通のこと」なので、災害時でもいつものようにやります。大阪府北部地震の時は、普段から調理に使っているメスティンを使って、いろいろな食事を作りました。たとえライフラインが断絶していても、こんなにバリエーション豊かな食事が作れるんだなぁと自分で感動した位です。これは普段からやっているからだと再確認しました。意外なところでは、お菓子のストックがあってほんとに良かったなと思っています。何故か避難生活の時には「お菓子を食べる」という発想が世の中にはない気がします。でもお菓子があれば心がほっこりしませんか? なかなか救援物資では手に入らないものなので、あなたの大好きなお菓子を用意しておくと少しでも快適な避難生活が送れると思います

お菓子が好きなら・・・

パスタは沸騰したお湯で湯がく。しかしステンレスジャーに入れ、お湯を入れて3分待つだけでも食べられることをご存じでしょうか? ステンレスジャーは保温可能なお弁当箱です。最近はこれを使ったレシピ本があるほど、調理用具としても使えます。このパスタは、お湯を沸かすというひと手間はいりますが、その他は非常に簡単です。うまい棒という駄菓子は、子どものいる家には大抵あるものだろうと思い、このレシピを思いつきました。ポイントは早ゆでタイプのパスタを使うこと、湯切りする時には全てを切らずに、少し水分を残しておくこと。これだけでパサパサせずとてもおいしいパスタになります。湯切りした湯は、汚れ落ちが良いので捨てません。ステンレスジャーに戻し、蓋をして振ると、ある程度の汚れは落ちます。こうやって水を大切に使います。これは防災メシだけではなく、子どもが1人でお留守番をしている時にもおいしい温かいご飯が食べられるというレスキューフードでもあるのです。最近はフェーズフリーという考え方が広がってきました。わざわざ防災のためだけではなく、日常からもやってみる。そうすることで無駄を省き、そして防災に対するハードルを下げることが可能となります。
災害対策は日常にやっている事しか実行できません。いかに普段からやっておくか? ここが快適な避難生活につながるのです。動画でいろいろとご紹介しているのでよければ見て実践してみてください。

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2022年10月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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