Brillia 防災コラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

非常時、幼児や子どもを抱えての行動

子どもを抱えての避難は大人だけの避難に比べて時間がかかります。
最近、地震だけではなく大雨警報、洪水被害、土砂崩れが頻発しています。今や日本のどこにいても被災する可能性が高まっていますね。そんな時に大人ひとりならともかく、自分で判断できない、抱っこされたい幼児が一緒にいたらどうでしょうか? 自分だけが助かるための防災とは心構えも準備も大きく異なってくるんです。いきなりやってくる災害に準備なしでは対応できません。まして幼児と一緒に避難するとなると一層大変なことになるのは分かりきったこと。何事も日頃からの訓練が必要になります。今回は被災時に幼児や子どもを抱えてどう対応するかについて、ご案内します。

我が家の防災大作戦

これは災害時に自分たちが何をしなくてはならないのかを前もって明確にして、発災時に慌てず対応するための作戦をたてるものです。家族で話し合って共有しておきましょう。

ここでは、共働きのパパママ、5歳の幼稚園児あやちゃん、2歳の保育園児ゆいちゃんの4人家族が大作戦をやっています!
おうちはマンションの1階で幼稚園と保育園はA駅近くにあり、おうちと A駅までは自転車で10分の距離です。パパの勤務地は電車で15分。ママの勤務地はA駅近くです。

大作戦① ひとりひとりができることを決めておこう

スケッチブックやノートにみんなで書き込んで、大人も子どもも「自分でできること」を明確にしましょう。

あや)このうさぎのポニーちゃんがいると安心。持ってくね。
ママ)ママはゆいちゃんの荷物を持つから、あやちゃんは防災グッズが入ったこのリュックを持てる?
あや)ちょっと重いけど、このリュック、背負えるよ。
あや)もし幼稚園にいるときに地震がおこったら、先生のいうとおりにするね。
パパ)地震が起きたら、パパは歩いて幼稚園まで迎えに来るからそこにいてね。
ママ)ママは保育園に行くわね。

大作戦② 周りにサポートしてもらう人を作っておこう

妊娠中・産後の女性や乳幼児は、災害時に特別な支援が必要 です。とはいえ、地域の方も支援が必要な人の存在を知らなければ、助けたくても助けることができません。挨拶を通して地域に顔見知りを作ったり、地域の防災訓練や防災イベントに参加したりするように心がけましょう。

ママ)何かあったら、お隣のたっくんのママにお声掛けしておくね。
あや)幼稚園行く途中で、何かあったらゆうきくんのおうちにいるよ。
ママ)来週、自治会の防災イベントに起震車がくるんですって! 家族で行ってみよう! 自治会の人たちが何をしているかも知りたいよね?

大作戦③ 防災マップを作っておこう

自分が住む地域、自宅周辺で起こり得る災害について調べて、どんなことが起こり得るのか想像してみましょう。

  • 1.自治体が配布しているハザードマップを入手する
    ハザードマップとは自然災害による被害予測をマップ化したもの。これによって災害ごとに被害の程度や傾向、避難所や災害時拠点病院(災害発生時に傷病者の受け入れ拠点となる病院)、避難ルートが分かります。

  • 2.自治体が発行する防災手帳などの地域の防災情報を集めましょう
    あなたはお住まいの地域の避難所のことや備蓄品について情報を把握していますか? 災害の対応は自治体によってかなり異なります。地域の町内会などで行われる防災訓練にも積極的に参加して、地域の方と顔見知りになっておきましょう。

  • 3.我が家の防災マップを作る
    自宅周辺の白地図を用意して1や2から得た情報を書き込みましょう。防災マップができ上がったら、子どもを連れて安全に避難できるルートかを実際に歩いて点検してみましょう。

パパ)俺がA駅から歩いて帰る途中の工場に長いブロック塀があるよ。地震の時は倒れてくるかもしれないな。
ママ)私は駅の反対側の会社に行くのに線路下のアンダーパスを通ることが多いのよ。集中豪雨で急な浸水が起こった時は、どこを通れば安全かしら?
ママ)あら? うちのマンション、ハザードマップでは浸水域にあるわ! 1階だし万一の時は2km先の高台のおばあちゃんのところに避難しようかしら?

大作戦④ 防災リュックの中身を見直そう

避難している時に、はぐれてしまうことも想定し、リュックは1人1個を用意するのが基本となります。

  • 1.<第一次防災リュック>の基本は 「持てる、使える、助かる」
    一番大事なものは命です。詰め込みすぎて逃げられないのは本末転倒。あれもこれもとなりがちなので、重量オーバーにならないように気をつけましょう。
    防災グッズは必ず一度は使って判断すること。全て一回は使ったことがあり、不安なく使える状態にしておくことも防災です。
    最優先は命を守るために必要な防災グッズ。次に生活必需品です。

  • 2.いったん落ち着いてから取りに戻る<第二次防災リュック>
    一時帰宅の安全確認ができてから持ち出すものです。備蓄の延長で備えておきます。私は、発災時に必要頻度の高いものから優先順位をつけて<第一次防災リュック>に備えます。入りきらなかったもの、余分にあると助かるものなどを<第二次防災リュック>に詰めています。

  • 3.緊急時に命を守るグッズは常時携帯型として<防災ポーチ>に入れる
    緊急時の必要度が高く、常時持ち歩けるものはポーチの中にひとまとめにしましょう。このポーチはいつも出かける時に持参します。

パパ)持ち歩きの「防災ポーチ」は考えたことがなかったな。帰宅途中で停電して明かりが欲しい時や携帯電話のバッテリー切れの時も携帯充電器を持ち歩くといいよな。

  • 4.子どもとママが安心して避難生活を送るためにあったらいいもの

    • ①母子健康手帳、健康保険証

      常に携帯し、大切なページはPDF化、もしくは写真にして保存、クラウドに載せておくものいいでしょう。

    • ②妊婦・乳児の健康管理チェックリスト

      妊婦の健康記録や幼児の排便・授乳時間などの記録をつけておくことで、万一ママの体調により医師との意思疎通が図れない場面でも妊婦・子どもの状態を把握できます。

    • ③おむつ、お尻拭き

      お尻だけではなく、体を拭くのにも使えます。

    • ④授乳用ケープ

      授乳時だけではなくブランケットとして使えます。

    • ⑤スプーン、紙コップ、ラップ

      紙コップを使って少しずつ赤ちゃん用ミルクを飲ませる方法もあります。

    • ⑥非常食、離乳食

      母乳やミルクで代用したり、大人の食事を取り分けることも可能。

    • ⑦ガーゼ

      歯の汚れを落としたり顔を拭いたりと乳幼児のお世話にはあると便利です。

    • ⑧抱っこ紐

      避難の際にはベビーカーは使えないので、両手が空く抱っこ紐は必需品です。

    • ⑨ビタミン剤

      災害時はビタミン不足になり口内炎になりやすいのでサプリで代用します。

    • ⑩おもちゃ

      使い慣れたおもちゃがあることで心のケアにもつながります。

大作戦⑤ 発災時に行動すべきことを予習しておこう!

洪水や土砂崩れが起きた場合は、避難勧告や避難警報が出たら指示に従い避難します。 地震の場合、発災前、発災時にはできるだけ安全な場所に移動して、子どもと自分を守る姿勢(ダンゴムシのポーズ)になり、揺れがおさまるのを待ちましょう。幼児の場合、子どもに覆いかぶさる形でダンゴムシのポーズをしてください。 次に揺れがおさまったら、

  • ①割れたガラスや食器などでけがをしないために、靴かスリッパの上から新聞などで足を覆うように新聞スリッパを履く

  • ②家の中にいる家族の安否、被害状況を確認する

  • ③ラジオなどで正しい情報を得ながら、防災リュックを手元に出す

  • ④在宅避難か避難所に行くのかを決める

  • ⑤必要があれば避難準備をする

  • ⑥連絡を取りたい人がいれば「災害用伝言ダイヤル《web171※》」を使って安否確認する

水害時、乳児と一緒に避難する場合は、抱っこ紐やスリングを使って乳児を抱っこして避難します。幼児の場合は子ども用の防災リュックに必ず名前や連絡先を書いたカード、防災笛、水、お菓子を入れ、必ず靴は履かせましょう。
前もって自分と子どもが冷静になるための<おまじない>も書き出しておきましょう。あなた自身が一番冷静になれる行動は何ですか? 私は胸に手を当てて3回深呼吸して「大丈夫」と言うことです。子どもとのハグも落ち着くのではないでしょうか?
自分がするべき行動を書き出しておくことも必要です。自宅にいる時、いない時、どちらも取るべき行動をシミュレーションしておくといいでしょう。そして発災時に助けてくれる人のリストも再確認しておきましょう。最後に避難場所を家族で確認、実際に行ってみてどれぐらいかかったか、また荷物と子どもを抱えて逃げられるのかなどの見直しが必要だと思います。

ママ)みんなでおばあちゃんの家まで防災リュックを背負って水害時のルートを歩いて行ってみようよ! でもあやは2kmも歩けるかしら? そうだわ! おばあちゃんの家にも防災リュックを備えましょう。

乳幼児の心身の特徴と対処を知っておく

  • 乳児の場合
    脱水症状を起こしやすい。熱中症や低体温にもなりやすい。体調が急変しやすい。
    免疫や抵抗力も弱いので、感染症にかかりやすい。

    ※言葉で意思や状況を伝えることが不十分なので、泣き方、表情、機嫌、肌で会話をする

  • 幼児の場合
    咀嚼や消化機能、排尿などの調節機能が未熟。発達段階に応じた食事内容、量に配慮する。乳児は虫歯になりやすい。免疫や抵抗力が弱いので、感染症にかかりやすい。言葉で表現できないぶん不安や恐怖が生理的反応になって現れることもある。

    ※これらには 十分な水分補給、衣類や室温の調整で対応。皮膚の清潔、保湿を保つ

最後の締めくくり 1日だけ防災トライアルをしてみる

何事も初めてのことがすぐできるわけはありません。しかし災害が発生した時が初めてでは、命の危険さえあります。
いきなり何もかも訓練する必要はありませんが、何か一つでいいので気になっていることをやってみる。得意なことだけではなく、苦手なこともあえてやってみてほしい。最後までやりきれなくてもいいので、やってみることが大事です。そしてなぜ最後までできなかったのか? を話し合っておきましょう。この振り返りが必ずあなたと子どもの命を守ります。
いつ起こってもおかしくない大災害。その中で生き残るだけではなく、子どもの命を護りつつ、生き延びてほしいと心から願っています。

※「災害用伝言ダイヤル《web171》」は、事前に登録しておいたメールアドレスや電話番号に伝言を届けます。また、声の伝言ダイヤル《171》は、通信が増加し、つながりにくい状況になった場合に提供が開始されます。《web171》も《171》も連携していますのでどちらからでも利用できます。

《web171》を使うときはこちら
https://www.web171.jp/web171app/topRedirect/

災害用伝言ダイヤルの動画の説明はこちら
https://youtu.be/-JFu5AmPeFw

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2023年6月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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