Brillia くらしのコラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

地震時を疑似体験できるゲームで見えた問題と私からの提案

最近は災害が頻繁に起きるので、防災そのものが身近になってきていると思います。メディアでも防災を一年中取り扱うようになってきました。最新の情報もどんどん入ってきます。しかしそれは情報になっているだけで、あなたにとっての具体的な防災対策になっていますか?
防災は頭で考えるより動いてみないと見えないことがあります。マンション防災をもっと具体的に考えてみましょう。

災害は年々変わってきている

今年2022年は、世界的に過去にはなかった数多くの災害が報告されました。日本でも季節外れの大雨、これまでにはなかったエリアでの冠水、土砂崩れなど。今まで問題なかったからこれからも大丈夫! とはいえなくなってきています。災害規模が変わってきているので、防災はそれを確実に上回るバージョンアップが必要です。しかし人は自分が体験した最大の経験を、これから先の経験の中でも最大と思ってしまう生き物です。特に自然災害においては、過去、頻繁にはなかったため、これから先も自分の体験以上のことはないと思い込んでしまいます。例えば阪神・淡路大震災であれば、少なくとも27年以上経っています。この間に防災の基礎知識も、対策も、そして用意しなくてはならないことも大きく変わりました。しかし当時の知識にとどまってしまっている方がたくさんいらっしゃいます。当時は地震が起きたら「トイレに逃げる」ということが常識とされていましたが、今はトイレに逃げることはNG。閉じ込めにあうことを考えて、より強固で逃げやすい玄関に行くことをすすめられています。他にも、「お風呂に水をため、トイレを使うときにはその水を使って流す」という対応もNGです。大きな地震の際は、トイレの配管やお風呂の配管は、見えないところで破損していたり、ずれていたりする可能性があります。そこへ水で無理に流してしまうと階下に汚水を漏水させてしまうのです。これから起きる災害に対して新しい常識を知っておくことも、有効な防災対策なのです。

Brilliaが提案する地震時を疑似体験できるオリジナルゲームって?

これは災害が起きた時に、いろいろな状況になり、問題が起きた時、どんな対応をすべきか、またどの担当に依頼すべきかを考えるためのゲームです。まずマンションのどこに対策本部を置くか、そしてマンション理事会組織それぞれの担当班の把握、そこにいろいろな状況やいろんな問題を抱えた被災者が登場します。その各状況、被災者の抱える問題を、誰がどう対応するのかをみんなで考えるのです。 先日、このゲームイベントの見学をさせていただきました。最初はゲームに戸惑っていた参加者も、徐々にコミュニケーションをとり「これはどうなのかしら?」と皆さん真剣に考えていらっしゃいました。そこであちこちで聞こえた言葉があります。「これは管理人さんにお願いできないのかな」。これが大きな問題です。大きな災害が起きた時、通勤勤務の管理人の場合、マンションまでたどり着くことができない可能性もあるのです。なので基本的にはマンションの理事会、管理組合、居住者の皆さんで何とか力を合わせて動く必要があります。ゲームのカードには「こんなことを頼まれるのか?」とか「こんなことが本当に起きるのか?」という問題が次々と起こります。ゲーム自体は30分ほどでしたが、実際はこの30分の内容が、たった10分位の間に起きると思っていただいても過言ではありません。それぐらい一気にいろんなところでいろんな問題が起きるのが災害なのです。

地震直後の最初の一歩は何をすべき?

このゲームでは大きな地震が起きるところから始まります。皆さんが最初に悩んでいたのは避難の仕方でした。そこで典型的なモデルケースをご紹介しましょう。地震が起きたら、いきなり避難所には逃げません。まずは一時避難所、もしくは広域避難所に逃げることが求められます。大抵はマンションの中の駐車場が設定されています。ここでそれぞれの階の班長やリーダーが、その階の居住者が揃っているか、点呼を取ります。そして、まだ部屋から逃げられずに残っている人が誰なのかを把握します。この時点でマンションの住人で協力して、状況の確認もしくは救助をします。救助が難しい場合は担当の理事に報告し、消防等にまとめて通報します。1時間ほどその場に留まって災害の状況を確認し、在宅避難を選ぶのか、それとも避難所に行くのかをそれぞれに確認をします。そしてまとまって避難所に行くのです。一時避難所にいる間も、いろいろな状況が考えられます。その場所で災害対策本部を設置し、マンションの住人たちの状況、マンション自体の被災状況を把握する必要があります。それと同時に起きている問題を解決していくことが必要となってくるのです。もちろん避難所に行ってからも次々と問題は起きます。登場人物も様々で、何とかしてほしいと訴える問題も意外なのものもあります。このようなシチュエーションゲームを行うことで擬似的に被災を体験する事は可能だと思いました。そして何よりも大事なことはそれぞれが災害が起きる前に<備えるべきこと>に気づくことなのです。ただ動画を見たり、情報を収集するだけでは本当の災害の状況というのは分かりません。機会があればぜひこのBrilliaオリジナルのゲームを体験してほしいと思います。
(参考) Brilliaが提案する地震時を疑似体験できるオリジナルゲーム《地震編》とは、東京建物のマンション管理組合向けの被災時疑似体験ゲームです。

避難生活を少しでも快適に過ごすために日頃からしておくこと

災害が起きて、在宅でも避難所に行ったとしても、そこで生活は続きます。どうしても《災害が起きる》→《 3日後》→《 1週間後》のような時系列のスライドのようなイメージで捉えている方が多くいるように見受けられます。人はどんなに凄惨な状況に置かれてもトイレに行きたくなるし、時間が経てばお腹も空くし、そして眠たくもなります。普段当たり前にあるものがない。そんな中でも自分が少しでも快適に過ごすためには、自分は日常生活においてどういうことを大切にしているのかを知っておきましょう。特に避難生活の中では、清潔に対する欲求、食事に対する欲求、そして睡眠に対する欲求、この3つを確認します。まず最初に清潔。どれぐらいの頻度で髪や体をきれいにしておきたいのか? それによって備蓄するものが変わってきます。髪の毛が長ければドライシャンプーや、拭いて清潔にするような商品を多く用意しなければなりません。体を拭く場合も、体拭きシートや汗拭きシートの使用感なども自分の好みに合わせなければストレスになります。食事に関しては何を食べれば自分が元気になるのかを明確にし備蓄しておきましょう。睡眠ですが、どこででも寝られるという人でも避難所ではやはりストレスがかかります。人の出す音に関しては耳栓、いつものベッドではないのでエア枕、バスタオル、タオルなどを用いてより快適な睡眠姿勢をとることが必要となります。
このような欲求に対する対応策は、日常の中の生活を見直すことから始まります。自分は何が好きでどういうことにこだわりを持っているのか? 自分のこだわりの棚卸しを日常生活の中でしておきましょう。

挨拶こそ最上の防災

もっと気軽にできる防災って何ですか? とよく質問されます。私は必ず答えるのが「え〜感じの人になること」。
マンションの中で、にこやかに会釈をする人。要するに「え〜感じの人」ですね。こんな人に対しては快く思います。そしてその人の家族のことも認識します。つまりそのコミュニティーの中に自分の存在、自分の家族の存在をアピールすることができるのです。逆に感じの悪い人に対しては興味がないだけではなく、嫌悪感さえ持つかもしれません。もし、とても劣悪な状況になったとしても積極的に感じの悪い人を助けようとは思えないかもしれません。え〜感じの人は、いつもいい思いができます。私の一例をご紹介しましょう。私が東京に行った際必ず訪れる中華屋さんがあります。そこはとても繁盛していて忙しく、中国からやってきたご夫妻が2人だけで切り盛りされています。あまり日本語は得意ではないようで、ぶっきらぼうに単語だけで話をされます。とても性格は良いのですが無表情なのと言葉が単語だけなので誤解されやすいタイプの方とお見受けします。私は毎回行くたびに会釈だけではなく季節の挨拶をしていました。何回行っても何回挨拶しても、挨拶のお返しはありません。しかし諦めずに「今年は暑いねー」「今日は大阪から来た」となんだかんだと話しかけていました。そして通い始めて半年経った9月のある日、いつものように「こんにちは」と声をかけました。そして辛さが評判のマーボードーフを頼みました。とても暑い日で食べていると汗が吹き出してどうにもなりません。扇子で仰ぎながら食べていると、ぶっきらぼうで無表情の女主人がなんと扇風機をつけてくれて私のほうに向けてくれたのです。にやっと笑いながら、「しっかり汗かきなよ」と言いながら。私はやっとこの中華屋さんに認められたなと思いました。帰り際に「いつも来てくれてありがとう。これ食べてね」とごま団子をくれました。以来、店に行くとにこやかに挨拶をしてくださいます。ずっと挨拶をし続けて相手にとって、え〜感じの人になるとこんな良い思いをすることができるのです(笑)。
え〜感じの人になれば、避難先でも日常生活も快適になる。私はこれを確信しています。まずは目が合った人に会釈を。これならコロナ禍でもできる最大の防災になると私は思います。ぜひお試しあれ!

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2022年11月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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