Brillia 防災コラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

大事なのは人との関わり

どれだけ備蓄をしていても、災害時には一人の力では限界があるもの。人とのつながりが、非常時には命を護る大きな力になります。普段から「ええ感じの人」として周囲とつながりを築くことが、いざというとき自分や大切な人を護る鍵になります。

このコラムでは、共助の大切さや安否確認を含めた災害時のコミュニケーションの工夫についてお伝えします。

ええ感じの人になって助かる可能性を上げる

最近は防災に対する意識が高くなってきたことで「自助」として備蓄をコツコツとされている方が増えてきました。

その一方で、自助を行っている人に対して「そこまでやらなくていい」とか「考えすぎだ」、「いざとなったら何とかなる」と自助を否定するような方も少なからずいます。そんな中、今、防災意識の高い方々の中で「頑張って自助をしているのに、いざという時に用意をしていない人のために蓄えたものを提供するのは嫌だ、共助はしたくない」という考え方が増えている傾向があります。また、「自助」として十分な備品を準備しているから人に頼らなくても大丈夫、と「共助」に対する意識が低下しているようなお話を耳にすることも増えてきました。

実際の被災地ではせっかく用意していた蓄えも、水害や地震で家ごとなくなってしまうことも。7日分もの備蓄をしていたのに実際にはライフラインの復旧に何か月もかかってしまい備蓄が底をつくこともあり得ます。 どれだけものを備蓄していても、1か月もすれば使い切る。そんな状態になったら助けを求める先は周りの方々です。自分一人でできることは限られています。日常生活に戻るためには、周りの人との協力=共助が必要になってきます。

私が講演会の中で最後に強調するのは共助のためのきっかけ作り。
それは「ええ感じの人になること」。
難しいことではありません。普段から微笑みや会釈でいいのです。
気分よく人と挨拶する程度で、あなたは相手からええ感じの人として認定されます。周りの方々に自分を認知される。それは自分の所属するコミュニティーが増えることになるのです。「あのええ感じの人ね」と思われ、相手は「知り合い」として接してくれます。たったこれだけのことで自分が助かる可能性が高まるのです。周りの方があなたを助けてくれる可能性を手放してはいけません。

安否確認とコミュニケーションの大切さ

安否確認は基本的にアナログですることをおすすめします。

どれだけ便利なものでも、非常時にはシステムエラーが出るかもしれませんし、万が一の時には頼れないと考える方がベターだからです。

「マンション内の皆さんの安否を確認するのはどんな方法が早くて確実でしょうか?」という質問をよくいただきます。インターホンに安否確認ができる機能が付いているマンションもありますが、被災時に正しく作動するとは限りません。

日常から使っておかなければ、いざという時に人は冷静に行動できないため、うまく活用できないこともあります。災害時は日常にやっていることの半分しかできません。多分動くであろうという想定は非常に危険です。それだけに頼るのは、非常時、心もとない限りです。被災現場では、リアルな対人関係におけるコミュニケーションが一番確実で早いです。

私は以前、マンション管理組合の理事長をしていたことがあります。就任してすぐに行ったのは防災訓練がきちんと機能しているかの確認です。当時、500世帯位が住んでいるマンションでしたが、防災訓練がほぼ機能していなかったことが分かりました。そこで私がしたことは、逃げる際のルールを決めること。それまでは、ルールがありませんでした。住人はバラバラに非常階段を使うために混雑したり、迷って動けなかったりすることがありました。そこで、各階に班長・副班長の2名をおき、両端のお部屋から順に安否確認を対面で行うことを徹底しました。声をかけ、その部屋の人が逃げているかどうかを確認するために、班長と副班長が各家庭とは別にオリジナルマグネットを持ち、外に貼るというルールを設けました。そして住民はそれぞれの階で使う非常階段を決めました。当時住んでいたマンションでは、左右と真ん中の3つに非常階段があり、真ん中の階段は救助する時や、消火活動する時、理事長、班長や副班長が使うものと決めました。それぞれの階の安否は人力で班長と副班長が真ん中の階段を下りて対策本部に報告するというルールを作りました。これのメリットは短時間で効率よく情報収集ができることでした。

安否確認後も前述のように、普段から各階の住人同士がそれぞれの顔を認識し、班長や副班長との風通しの良いコミュニケーションをとれていれば、非常時の対応が円滑にできると思うのです。やはりここで活きてくるのも「ええ感じの人」なのです。最近は声をかけられるのを待っている人が多いなと日々感じています。声をかけると意外とそこから会話が生まれることも多くあります。

このコラムを読んだ方には声をかけられるのを待つ人ではなくて、自ら声をかけて、コミュニケーションの輪を広げる方になっていただきたいなと心から願っています。

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2024年12月16日現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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