【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント
災害に備えて備蓄している人が以前より増えてきました。しかし「災害時のためだけに食べるもの」を用意していないでしょうか? 食べたことがないため、口に合わない。また、賞味期限が長いからと思って、結局食べることなく廃棄することも少なくありません。それではもったいないだけではなく被災時に活用することができません。今回は災害時の食事の実際や、普段の備蓄品のアレンジで災害食になるものを紹介したいと思います。
災害時のために用意する非常食とは?
「非常食」とは、災害や遭難など非常事態により、食料の確保が困難になった時のための食料のことです。代表的な非常食には、水、アルファ米、パン、レトルト食品、缶詰、乾パン、チョコレートなどが挙げられます。以前なら乾パンしか選択肢がありませんでしたが、近年では災害備蓄食のバリエーションが豊かになっています。温めなくても美味しく食べられるレトルト食、温める装置のついたセットもあります。主食だけではなく、缶詰に入ったケーキやパンなども見かけるようになりました。その企業努力は素晴らしく、年々バージョンアップ、バリエーションが増えています。しかし、大抵は普段から食べられているものではありませんし、高価なので、災害が起きた時に食べようと大事に取っておく人が多いです。これがうまく管理できない原因となることがあります。もったいないですが、賞味期限が切れて廃棄してしまうことも少なくありません。
備蓄食を準備する時のポイント
賞味期限が切れていないか。備蓄食には、それだけではないポイントがたくさんあります。
各家庭ごとに準備するべき食料は全く異なります。備蓄食の筆頭として挙げられる「乾パン」を考えてみてください。災害時に水の制限がある時に、パサパサの乾パンを食べるとどうなるでしょう。喉が渇いて仕方がなくなります。子どもには、固いパンはなかなか食べづらい。最初は親に言われて食べたとしても、「パンが固すぎ」なんて反発されてしまう可能性も。何よりも私たちは日頃乾パンを食べていません。だから乾パンを食べることでさらに現実を思い知らされます。被災して気分が下がっている時に、さらに食べ物で嫌な思いはしたくないものです。
子どもや若者には、缶に入ったパンなど、比較的柔らかめのパンの方が食べやすいかもしれませんので、家族に確認しておくとよいでしょう。年代や好みを考慮することもポイントの1つです。
備蓄食は普段から使うことを前提に
『備蓄をわざわざするというのは難しい』。そう思う方は、現状の買い物に行くスパンを空けてみてください。2、3日おきに買い物に行っているのであれば、そのうちの1回を4、5日に空けてみる。買い物のスパンを空けると、いつもどおりの献立ができなくなります。食材が少なくなれば、真空パックのおかゆやごはん、パスタ、そして缶詰のパン・魚・果物など備蓄している食品を試食してみる。備蓄庫を目に見える場所に用意してみる。すると備蓄が「いっぱいある」「減った」とすぐに視覚で確認ができます。備蓄食を普段目に触れない場所に置いておくと、知らないうちに賞味期限が切れていたり、家族の好みが分からず、単に「準備しただけ」になりがちです。備蓄食を災害時にだけ出番を待つものにせず、普段から活用できる食品にしましょう。
非常食って何日分必要?
大きな災害が起きた際、電気・ガス・水道・通信・交通などのライフラインの復旧には、5日間と言われています。近年は災害が大規模になり、加えてコロナ禍のため今までとは事情が違ってきています。非常食は最低7日分、できれば14日分備蓄しておくと余裕を持って生活できます。非常食は平均2~5年持ちますが、賞味期限を確認しながら準備をしてください。また、定期的に非常食は食べるようにしておきましょう。種類をいろいろ揃えるのではなく、アレンジができるように普段からチャレンジしてみてください。私は基本的に災害用に発売されている備蓄食を家に多く置いていません。普段よく食べている米、パスタ、ラーメン。缶詰やパスタのレトルトソース、小麦粉、ホットケーキミックスなども非常食として使います。わざわざではなく、普段から食べているものを3つ多く買い足して備蓄する、『普段から食べる→買い足す』を繰り返しています。
非常食にバリエーションをつけるには
私は非常食でも調理することも想定して準備しています。それが可能なのは、ライフラインが切れても料理ができる代用品を持っているから。備蓄食は基本温めずに食べることが想定されていますが、災害時に温かいものが食べられないとなると心も体も持たないので、カセットコンロ、ガスボンベだけではなく、固形燃料や炭も家に備蓄しています。みなさんも、キャンプ道具を持っている方は、どんどん使ってみましょう。おうちキャンプを楽しむために、キャンプグッズをキッチンで使う人も増えています。最近は100円ショップでもいろいろなグッズを売っているので、気軽に試してみてはいかがでしょう。
そして1つの素材でいろんなバリエーションをつける。例えば、インスタントラーメンをラーメンとして食べる以外に焼きそばや冷やし中華、パスタ代わりにして食べてみる。パスタのレトルトソースを調味料代わりにしたり、缶詰を他の食材と混ぜてみたり。料理の幅を広げることも普段からよくやります。
災害時の食事を特別なものと思わない
備蓄食は、月に1度見直して、賞味期限が近ければその日の食事として食べる。そうすれば味に慣れて、食品廃棄をせずに済みます。台風が来る前にカップラーメンやおにぎりを買い揃える人がたくさんいます。普段から食べているものなら良いのですが、食べ慣れないものであれば、被災しなかった時に無駄な買い物になってしまいます。今あるもので日常と変わらないものを食べる。これは普段から練習が大事です。防災のための食事を極めることができたら、かなり暮らしの質が上がります。アレンジ力が上がるので、料理の腕も上がり節約もできます。何もない時だからこそ、手をかけるのも素敵。たまにはあるものだけでちゃちゃっとご飯を作るのも試してほしいと思います。何事も普段からやっておくことが大事です。わざわざ用意する備蓄よりも、普段の食事に近いものを災害時にも食べる。その方が元気になれますよ。
辻 直美(国際災害レスキューナース)
一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。
※掲載の情報は、2021年10月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。