【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント
日本の災害は大きく変化しています。地震は以前に比べて、回数も増えています。台風や豪雨豪雪などの被害も毎年起きています。何よりも今は世界的に拡大している新型コロナウィルス感染。こんな状況で自然災害が起きたとき、あなたは対応できるでしょうか? そのためにも災害時にはどんなことが起きるのかを知っておきましょう。
地震による被害は家の中だけではない
地震が起きると、家の中の被災、建物の倒壊も起きます。物は落ちる、倒れる、飛ぶ、移動する。この4つの動きをします。一番危険なのはキッチン。菜箸が飛んできて突き刺さり死亡したケースもあります。しかし地震の被害はこれだけではありません。火災発生、土砂崩れ、液状化現象、ライフラインの断絶、場所によっては津波などがあります。海溝型地震と直下型地震では揺れ方が全く違うため、起きる被害も全く変わります。直下型は活断層がずれることで起きます。緊急エリアメールの前に下から突き上げるような縦揺れ。揺れる時間も短く、ライフラインが断絶するエリアは限られています。海溝型はエリアメールが鳴ってから揺れます。小さな揺れから徐々に大きな揺れ、縦揺れ、そして回転性の揺れ。揺れる時間も長く、被災エリアは大きい。場所によっては海や河川の津波が起こります。ライフラインは広範囲に断絶し、建物の倒壊だけではなく、火災や津波も起きる。津波も場所によっては火炎津波になります。
水害は予想以上の災害が起きる
水害には、大雨、雹(ひょう)、豪雪、台風、河川の氾濫、土砂崩れなどがあります。地震と違って、災害が発生するのはその瞬間だけではなく、時間が経ってから被災するケースもあります。被災エリアは一部地域だけではなく、広範囲、また長期になることがあります。ライフラインの断絶、流通の断絶など長期にわたって避難生活を強いられます。また雨や台風が通り抜けた後の災害発生もあり、地震に比べて被災する時間は長くなります。そして、浸水することそのものの災害だけではなく、長期にわたる雨によっても起こります。汚泥水が感染源となるだけではなく、家にカビが生えたり、バクテリアや細菌などが発生する。それが原因で呼吸器感染症になるケースもあります。その汚泥水に触れると、重度の皮膚アレルギーや破傷風などを起こす可能性があります。
災害の歴史から自分の被災する可能性を知る
日本は世界から「災害大国」と呼ばれています。何度も日本は地震、火災、河川氾濫、津波に見舞われ、とても大きな被害に遭いました。その都度立ち上がり復興し、再建してきた。つまり私たちは日本に住んでいる限り、災害が起きることを念頭に生活する必要があります。また水害被害も近年特に多くなりました。地球温暖化から、台風の発生が元日から起きたり、台風の進路が大きくずれたりすることも珍しくありません。地形や海水温の上昇により、線状降雨帯の発生や、気圧が動かず、雲がその場所にずっと停滞することで起きる豪雨、豪雪も多くなりました。ニュースで見る被害は実は表面的なこと、それも一部しか報道されていません。地震と水害では災害時に起きることは全く変わります。また住んでいる場所、地形、災害が起きた時にあなたがいる建物の種類等によっても起きることは変わるのです。あなたの住むエリア過去に起きた災害を調べてみてください。その災害はまた起きる可能性があると思って、備えておきましょう。
感染拡大中のコロナ禍の災害で起きること
コロナ禍での避難所は、もともと収容できる人数の3分の1に減らしています。感染対策マニュアルは前からあるので対応は基本同じです。しかしマスクやアルコール消毒などは被災者自身が持参して使うことが求められています。また避難所ではそれぞれの居場所にソーシャルディスタンスを保つため、被災者同士が語り合うことが少なくなります。コミュニケーションがなかなか取れず孤独感を強く持つ人もいます。今までのような会話の仕方ではなく、顔を合わさなくても声を掛け合う、パーテーション越しに会話するという新しい形が始まりました。そして物や食べ物、飲み物の分け合いもしないことが新ルールになりました。また、2021年1月からは、毎日感染者や重症者の数が増えて、医療崩壊は起きています。そこにもし災害が起きたら、被災した人が病院で治療を迅速に受けられる可能性はかなり低くなります。入院先だけではなく、被災者の怪我の対応も難しくなるかもしれません。ただでさえ災害時は病院が大混乱します。それ以上の状況が起きることは必須だと思われます。
自分の被災をイメージして備えるために
今までは日本のどこかで災害が起きても「誰かが何とかしてくれる」と思っていませんでしたか? しかし、今回のコラムを読まれて、いかに甘い考えなのか分かると思います。まして全世界的に新型コロナウィルスが感染拡大している。この状況での災害は未曾有の災害となりえます。私たちがこれからしなければならないことは、確実な自助です。もちろん専門家が対応しなければどうにもならないことがたくさんあります。しかし今までのような「自分だけは大丈夫」では対応できないのを認識してください。今、自分ができることとできないことを明確にしておくことです。日常的にできないことは、被災地等の緊急時には絶対にできません。なので色々な備えが必要です。備えはものを買うことだけではありません。それを知るためには、まずは防災訓練に参加すること。そして今自宅にあるものだけで3日食事をとってみると良いでしょう。今の自分を知る、防災体験をする、この2つをもっと積極的にやってみてください。
辻 直美(国際災害レスキューナース)
一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。
※掲載の情報は、2020年12月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。