Brillia 防災コラム

【防災コラム】レスキューナースが教える災害を生きぬくヒント

ペットの防災対策

コロナ禍になってペットを家族に迎える人が非常に増えていると聞いています。家族の一員のペット、災害時の対策をきちんと立てているでしょうか? 災害に備えて飼い主は何を準備し、いざ災害が起こったとき、どのように行動するべきなのでしょうか? 私も3匹の猫と暮らしているので実践的な話をしたいと思います。

災害時にペットはどうなるのか?

東日本大震災では、飼い主とはぐれた多くのペットが放浪状態になったり、命を落としてしまったりしたことから、2013年に環境省は「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を作成。2018年には「人とペットの災害対策ガイドライン」へ変更・改訂し、避難する際の基本行動について説明しています。このガイドラインでは、ペットと飼い主は「同行避難」が原則です。同行避難とは避難所にペットと一緒に行くことです。しかし避難所の中にペットを連れて入ることはできません。自分にとっては大切な家族の一員ですが、避難所にはいろいろな状況の人がたくさんいます。避難所では人とペット双方の安全を保つためにもケージもしくはキャリーバッグの中に入れて同行してください。あなた自身も気が動転しているかもしれませんが、それ以上に不安なのはペットたちです。飼い主さん自体が落ち着いて行動することがペットの安全につながります。

災害時は、飼い主の安全をまずは確保し、ペットと「同行避難」

環境省が発行する「人とペットの災害対策ガイドライン」では、避難の際に犬にはリードをつけ、道にガラスなどの危険なものがないか確認しながら歩くこと。小型犬や猫はキャリーバッグに入れ、ドアが開かないようガムテープなどで固定することや、安心させるために毛布などでくるんで暗くすることなどを推奨しています。つまり普段からケージやキャリーバッグに不安なく入れること。飼い主と離れる状況に慣れていることが求められます。これはいきなりできることではありません。日常生活の中で練習していくしかありません。
生活環境だけではなく、散歩もままならないため、運動不足や排泄がうまくできずに体調不良になっているペットもいます。人間のように状況を理解できるわけではありません。ペットに非常時であることを理解させることは困難です。これもまた日々の練習かと思います。

被災の現実

今まで、あらゆる被災現場でペットたちの様子を見てきました。そこで感じたのは、人間以上にペットたちは不安を抱えているなということです。普段と違う状況でペットたちにかなりのストレスがかかります。そうなると、水を飲まない、食事が進まない、便秘や下痢嘔吐も起こり、体調に大きな影響が出てきます。
実際に東日本大震災や熊本地震の際、避難所にペットを連れてきた方は山ほどいます。しかし犬や猫が飼い主のそばにいられない不安から、遠吠えがひどくて苦情が出てしまいました。結局、その方は避難所から出ていかれました。飼い主にとっては家族だから、一緒にいたいという思いと、現実がそうではないことに怒りを感じて声を荒げて訴える方もたくさんいらっしゃいます。しかしこればかりはどうにもならないことをご理解ください。対応策として、ご家族のうちの1人が車中泊でペットと過ごす方もいらっしゃいました。ご家族の1人だけが自宅に戻られてペットと過ごすという方もいます。またペットだけ自宅に残して家族は避難所というケースもありました。

被災時のペットを守るために

環境省のガイドラインでは、やむを得ず自宅などにペットを残していかなくてはいけない場合は、自治体の動物担当部署に相談すると記載されています。また、ペットが迷子になった際に飼い主のもとに戻れるよう、ペットにはマイクロチップを装着したり、首輪や迷子札などをつけておく、といった対策も示しています。
また、避難所にペットを同行した際にも注意点があります。避難所ではペットを飼っている人も、苦手な人も、いろいろな人が不安の中を過ごしています。ペットがOKとされている場所でも、特に排泄場所や排泄物の処理、抜け毛など衛生面に気をつける必要があります。給餌やフードの確保、散歩などは飼い主が責任を持って行い、飼い主仲間同士で情報交換や協力し、可能な場合はボランティアや獣医師などの支援も活用しましょう。
避難所などで他の人と共同生活をする場合に備え、基本的なしつけと健康管理も大切です。例えば、無駄吠えをさせないようにしつけをする、キャリーやケージに慣らしておく、不妊去勢をする、一緒に避難できる頭数だけを飼育する、予防接種やワクチンなどを定期的に受けておく、などです。

被災前にしておきたいペットの防災対策

災害が起きると普段の生活とは全く変わります。散歩中でしか排泄ができない犬の飼い主は、本当に苦労されていました。日常生活そのままを災害時に送れるわけではないので、日頃からいろいろな状態に対応できるよう求められることを実感しました。
我が家では3匹の保護猫がいます。私は仕事柄、家を空けることも多いので、1泊2日であれば猫だけで過ごさせることもあります。(とはいえペットシッターに巡回してもらったりペットカメラを使ったりして様子を確認しています)。そして月1回は猫たちの防災訓練をしています。フードに関しては、メーカーを決めずいろいろなものを食べさせています。普段は自動給餌器に入れていますが、月に1回は袋からそのまま食べる練習もしています。水に関しては、浄水器にかけた水と、お風呂場に洗面器に入れた水の両方を用意して自由にどちらも飲めるようにしています。排泄もトイレを何個か用意して3匹が自由に使えるようにしています。

ペットを守るのも共助

私の住む街では同行避難ができないため、自助グループを作りました。お互いのペットをみんなで守るような活動をしています。自宅マンションの近所に幼稚園が廃園になっている場所があり、ある企業が管理をしています。そこに掛け合って、月極でお金も払い、いざという時にはペットの避難場所として場所を提供してほしいと直談判しました。オーナーがとても動物が好きな方だったため、話はスムーズに決まりました。今では28人もの有志が集まり、廃園した他の幼稚園の日々の掃除や管理を行い、月に1度はドッグランとして使わせていただいています。部屋はたくさんあるので、それぞれの動物によって分けて交流会をしたりもしています。有志の方々からは月会費を集め、いざというときのための必要物品の購入のために積み立てています。このような活動は他にはなかったので自分でつくりました。やはり1人ではペットを守ることができないので皆さんと力をあわせ、守っていきたいと思っています。
災害時にペットの命を守るためには飼い主たちの自助が欠かせません。日頃の備えと、安全な避難行動が、自分や家族だけではなくペットの命を守ることにつながるのです。

辻 直美(国際災害レスキューナース)

一般社団法人育母塾 代表理事
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(ともに扶桑社刊)がある。

※掲載の情報は、2022年6月現在の情報です。
※コラムの内容に関する解釈は、筆者の経験に基づく見解であり、公式な情報ではないことも含まれます。

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